OSS のビジネスモデルや、ビジネスでの OSS の利用の仕方にはどのような形態があります
か。また、それぞれの形態(ビジネスモデルや利用の仕方)の特徴や、メリット、デメリットは何ですか?
Q2-1
どのようなモデルに分類されるか?
A2-1
「OSS でビジネスができますか?」、「OSS でどのようなビジネスモデルが可能でしょう
か?」といったことが議論されることが多くあります。これは、OSS そのものが多くの場
合に無料で入手や利用可能であることと、OSS がいろいろな自由度を持っているために知
恵と工夫で様々なビジネスモデルが可能なことに起因していると言えます。なお、OSS の
ビジネスモデルについては、確立した分類の仕方があるわけではありません。ここでは、
オープンソースビジネス推進協議会(OBCI)による分類6を元に一部分類を追加して説明
をしますが、その他の分類の仕方をする場合もあります7。
Q2-2
ディストリビューションモデルとは?
A2-2
1.ディストリビューションモデル
(1)特徴
自社またはコミュニティにて開発されたソフトウェアの配布とサポートを行うモデルで
す。対価をいただく部分の基本は、ソフトウェアの配布よりも、サポート提供(OSS につ
いての技術問合せへの回答など8)が一般的です。したがって、多くの場合は年間契約で提
供されます。
このモデルで対象にする OSS には、
(a) 自社で開発した OSS の場合
(b) 公開されている OSS を対象にする場合
の両方の場合があり得ますし、(a)と(b)が組み合わされている場合もあります。メリットや
デメリットは、この(a)と(b)のパターンで異なってきます。
(2)例
① 自社で開発した OSS の場合
Zabbix(Zabbix)、NTT データ(Hinemos)など。
② 公開されている OSS を対象にする場合
野村総合研究所(各種 OSS)、サイオステクノロジー(各種 OSS)など。
③ 組み合わさっている場合
レッドハット(Linux カーネル他)、SRA OSS(PostgreSQL の拡張機能や独自ディス
トリビューション)、 オープンソース・ソリューション・テクノロジ(OpenAM を元
にした独自ディストリビューション)など。
(3)自社で開発した OSS の場合のメリットとデメリット
【メリット】
成功した場合に大きな収益となることが期待できます。年間契約でのサポート提供や、
サブスクリプション方式9であれば、売上が毎年得られます。
【デメリット】
ソフトウェアの開発投資が必要なのは当然ですが、OSS 化によって投資回収が遅くな
る場合もあります。
(4)公開されている OSS を対象にする場合のメリットとデメリット
【メリット】
すでに存在する OSS をサポートするので、サポート対象の OSS に精通したエンジニ
アを確保できれば、参入障壁がほとんどなくすぐに提供を始められます。
【デメリット】
他社も同じ OSS のサポートを提供できるので価格競争になりやすく、利益の確保が難
しくなりがちです。
Q2-3
システムインテグレーションモデルとは?
A2-3
2.システムインテグレーションモデル
(1)特徴
OSS を活用したシステム構築およびプロフェッショナルサービス(コンサルテーション
を含む)を提供するモデルです。顧客との契約や対価のいただき方は、OSS ではない場合
と何ら変わりません。
(2)例
OSS を採用したシステムインテグレーションを推進している例としては、NTT データ、日立ソリューションズ、電通国際情報サービス、TIS などがあります。なお、現在ではほと
んどのシステムインテグレータ(IT サービス企業)が OSS を採用したシステム構築を実施
しています。
(3)メリットとデメリット
【メリット】
いわゆる商用ソフトウェアの代替としたコスト削減をメリットと考えるケースがもっと
も多いようです。また、特定のソフトウェアベンダに囲い込まれないオープン性や、特殊
な機能要求などに合わせてソフトウェアを変更できること(カスタマイズ性)もメリット
です。昨今では、ビッグデータ関連や人工知能関連などを実現するソフトウェアが OSS と
して発表されるケースが多く、最新技術をいち早く採用できる点もメリットになりつつあ
ります。
【デメリット】
オープン性やカスタマイズ性との兼ね合いでもありますが、システムインテグレータが
技術課題を解決しないといけない部分が増えます。昨今では極めて多くの種類の OSS があ
り、中には品質面に不安があるなど未成熟な OSS が存在することも事実です。また、シス
テムインテグレーション事業ではシステム構築費用の他にソフトウェア製品の販売ビジネ
スが組み合わさっている場合も多く、営業面での商用ソフトウェアの販売額の低下が OSS
採用のマイナス要因となっている面もあります。
Q2-4
サービスモデルとは?
3.サービスモデル
(1)特徴
クラウドサービスや WEB サービス、SNS 等、OSS を活用して構築したサービスをイン
ターネットなどで提供するモデルです。顧客との契約や対価のいただき方は OSS を利用し
ていることと無関係です。顧客はサービスが提供する機能を利用するだけですから、サー
ビスが OSS で実現されているかどうかは通常は意識しません。OSS のビジネスモデルとし
てこの形態が特徴的なのは、(1) 中核のコンポーネントとして OSS を採用することで OSS
が競争力の源泉となっていること、(2)サービスのために開発したソフトウェアを OSS とし
て公開することがサービスのアピールや優位性の一助となっていることが挙げられます。
(2)例
いわゆるハイパージャイアントと呼ばれるインターネット上で世界的に大規模にサービ
スを展開している事業者(Google や Facebook、Twitter など)は、自社のサービス実現の
ために有益な OSS を積極的に採用すると共に、独自のソフトウェアを開発し、その一部を
OSS として公開するケースが目立っています。日本の楽天やヤフーなども同様に OSS を積極的に採用したり OSS を公開しています10。
(3)メリットとデメリット
【メリット】
システムインテグレーションの場合と同様に、コスト削減、オープン性、カスタマイズ
可能性、最新技術採用のメリットがあります。サービスモデルの場合、その対価はサービ
ス内容で決定されますので、実現コストの削減はサービス事業者の利益にできる場合が多
いでしょう。
自社で開発したソフトウェアを OSS として公開する場合、公開することで自社のサービ
スや技術の優位性をアピールする広告としての効果が期待できます。また、周辺ツールや
周辺ビジネスの誕生、発達に寄与する効果も期待できます。また、コミュニティによる機
能追加や品質改善が、自社サービスの改善につながる場合もあります(コミュニティを組
織的に立ち上げる場合もあれば、非組織的な開発者によるフィードバックの場合もありま
す)。
【デメリット】
他のモデルと比べたときのサービスモデルでの注意点は次の 2 点が挙げられます。
・OSS のライセンスには、ASP や SaaS の様なサービス提供型で利用する場合の条項が
明記されているものがあります。(例: Affero GPL(AGPL))。
・OSS の脆弱性が発見された場合に、その脆弱性を悪用される懸念が高くなります。これ
は OSS 固有の問題というわけではありませんが、サービスで利用しているソフトウェ
アを OSS として公開することは脆弱性を発見されやすくなる面もあります。
Q2-5 製品組み込み利用とは?
A2-5
4.製品組み込み利用
自社パッケージソフトウェアやその他製品の一部に OSS を利用する形態です。
【特徴】
気をつけるべきポイントは、製品とともにその中に組み込まれた OSS が利用者に届けら
れることです。これは「OSS の配布」にあたると考えられます。したがって、利用する OSS
のライセンスが課している配布する場合の条件を満たすようにする必要があります。11この
ことは、その製品が有償か無償かとは無関係です。
5.社内利用
自社の社内システムなどに OSS を活用する形態です。これは開発コスト低減であったり、
先進技術を速やかに組み込むなどの利用の仕方なので、オープンソースビジネス(オープ ンソースを収益や競争力の一つにしている)ものとは異なりますが、利用の仕方や適用箇
所によって特徴や気をつけるべき点などが異なります。
【特徴】
一般的な商用ソフトウェアとの明確な違いは、利用開始前(対象の社内システムの開発
前)に、購入という行為が必要ない点でしょう。ただし、これは一般論なので、Red Hat
Enterprise Linux のように購入が必要になる OSS も存在します。サポートやコンサルテー
ションなどのサービスが必要であれば、それらが必要なタイミングからサービスを購入す
ることになります。
費用、品質,利用ノウハウなど各ソフトウェアの個別事情の差異がほとんどで、OSS か
非 OSS であるかの違いはほとんどありません。OSS 固有のライセンスの制約を受けること
もあまりありません(厳密には個別の OSS のライセンス条件に依存します)。
Q2-5
複数モデルのハイブリッド型とは?
A2-5
5.複数モデルのハイブリッド型
上記のビジネスモデル(ディストリビューションモデルからサービスモデルの3種類)
を単独で提供する企業ばかりではなく、異なるモデルを組み合わせて OSS をビジネスにし
ている形態もあり、昨今ではこの様なハイブリッド型が多くなってきています。
① ディストリビューションとシステムインテグレーション
製品サポートの提供に加えて顧客からの要望に応じてコンサルティングを含むシステ
ム構築を請け負う形態や、システムインテグレータが OSS 専門部隊を持ってサポート
サービスも提供する形態がこれに該当します。
② ディストリビューションとサービスモデル
OSS をディストリビューションモデルで提供すると共に、その OSS を使った
SaaS/ASP サービスを提供する形態です。